2008年2月20日水曜日

インターネットが脳にならない理由

コネクショニズムに基づく人工知能は停滞しているようにみえる。
コネクショニズムとは簡単にいいかえればニューラルネットだ。
かつてThinking Machine社は1ビットのプロセッサを多数集めたスーパーコンピュータを開発した。その特殊性から成功はしなかったが、当時でも高性能を実現した。その後、コネクショニズムはネットワークがボトルネックとなり停滞した。そして今でも停滞している。
しかし、今インターネットの時代になり、世の中には非常に多くのパソコンが普及している。全世界のパソコンを接続すれば、一人分の脳を実現することができるのではないか?と考える人は少なくないと思う。
ここでは、それが成功しない理由を大雑把な計算で示し、無駄な努力をすることがないように戒めると同時に、どうすればよいかの指針を示す。
まず、脳細胞の数だが、大脳で140億、小脳で1000億といわれる。一般に知能は大脳活動と考えられているので、ここでは140億を想定する。しかし、本当に大脳だけで思考ができるのか保証はない。
140億の大脳細胞のうち人間は3%しか使っていないという。したがって、実際に活動している細胞の数は4.2億にすぎない。
ここで、インターネットのパソコン台数だが、ガートナーの調査によると2002年の総出荷台数が10億台とのことだ。しかし、これは10億台のパソコンが常に動作しているという意味ではない。最近では42億台という数値もあげられているが、これも保証の限りではない。
しかし、もっと少ない台数でもかまわない。1台のパソコンで少なくとも数万の神経細胞の動作をシミュレートすることは造作もない。少なくともメモリの問題ではない。問題は計算速度だ。
次に、計算速度と同時に重要な通信帯域について考える。
脳の神経細胞のネットワークは140億×1万といわれている。つまり、1つの神経細胞は1万の神経細胞と接続していると考えられる。また、神経細胞の信号伝達速度は100m/sである。そして神経細胞の長さは2mm~1mと多様だ。
神経細胞の長さを2mmと仮定した場合、遅延は0.2msecとなる。これが1万と同時に通信するなら、その帯域は50Gbpsになる。1mと仮定すれば、遅延は10msecであり、帯域は1Gbpsである。
つまり、スローモーションの脳を実現する場合でも、すべてのパソコンが1Gbpsで接続されていなければならない。
これは現時点では不可能だ。しかし、インフラの整備やスーパーコンピュータの技術開発により近い将来、これだけの帯域が確保される日が来るだろう。その時には、脳の実現が一大プロジェクトになってもおかしくない。
せっかく、ここまで考察したのでもう少し続ける。
1台のパソコンに1万の神経細胞を束ねた場合、外部との帯域も1万倍になる。よって、低速のCPUと超高速のネットワークが一番よい。
残念ながら50Gbpsの1万倍もの超高速のネットワークは当分実現できそうにない。そこで、脳のクラスタ分析が必要になる。脳細胞は均質ではないだろう。トポロジーに偏りがありクラスタが形成されていれば帯域を制限できる。クラスタ内は1台のマシンで実行する。1台のマシンの内部的な帯域はネットワークの帯域より大きい。ただし、本当に1台だとノイマンのボトルネックがある。
もっとも大きな脳のクラスターは右脳と左脳だ。右脳と左脳は2億の神経細胞で結合しているといわれている。2億は大きいが140億全体から見れば小さい。もっとも、実動4.2億に比べれば十分大きい。おそらく2億の中でも活性化しているものは少ないだろう。
スーパーコンピュータで左右の脳をそれぞれシミュレーションできたとする。すると2台のスーパーコンピュータの間で2億×50Gbps=10Ebpsの帯域が必要になる。力技だが、2億本の50Gbpsで結合すれば実現できる。このレベルの交換機を今から研究すればよい。
もう少し控え目な見積もりもしておこう。140億に脳細胞を2億の神経で結合しているならば、1/70だ。4.2億の活動している脳細胞を結合するのも0.06億で済むかもしれない。その場合、3Gbpsの帯域で十分賄えることになる。さらに1細胞あたり1Gbpsの場合は、60Mbpsでよい。もし活性化している脳細胞だけを特定することができれば、比較的容易に脳を実現できるかもしれない。

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